第二章・江東の麒麟児

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       † 「…………」 「それでさ~……」 餃子も酒が無くなっても、愚痴は延々と続いていた。 もう、日が傾いて……否、落ちてる。 店のおばちゃんも、あきれ果てて……無いな。 完全にスルーだ。 もしかして、これは日常茶飯事? 「本当、少しくらい休んだっていいじゃない!」 ?「そうだな。 少しの余暇が欲しいものだな。孫伯符殿?」 愚痴を零している女性の後ろからこれまた胸が大きい……ゴホン……隣の人同様に褐色の肌を持ち、長い黒髪は毛先の方で一つに纏められている。眼鏡を掛けて、怒っている所為だろうか、きぃぃぃっつい目をしている。 「は……はは…ははははは、め~り……ん……」 首がロボットのようにギギギギと音を立てるように、後ろを見た。顔が真っ青。 ?「あれほど、仕事をしろ、と言っていたのに何故このような場所で…しかも、お酒を飲んでいるのかしら?」 「いや~…あの~……そう!この人に飲もう!って言われて仕方なく!」 「言ってない」 俺は濡れ衣を着させたくは無いので、即答で返した。 「と、言っているが……まだ、弁解は必要か?」 「裏切り者ー!」 「そうか、認めるのだな」 孫伯符と呼ばれた人が、なみだ目でこちらを訴えてきたが、あえてスルー。 眼鏡を掛けた人はため息を吐いて、俺に話しかけた。 「そちらは……旅の者か?」 「ええ、そうですよ。 ここで何泊かしたかったのですが……この人の愚痴に付き合っていると宿が取れなくなってしまいましたけど………」 こんな時間に宿は取れないだろう。部屋自体が空いてない可能性が高い。 「あ、うちに泊まってく? 部屋ならいくつか空いているから良いわよ。」 「え、本当?」 いきなりの切り返しに思わず真偽を確かめた。 「本当本当。」 「じゃあ、よろしくお願いします。 俺の名前は、”劉凰”、字は”宵花<ヨイカ>”です。」 少し丁寧語で自己紹介。 字とは、単なる別名。 詳しいことは知らない。 「私は”周瑜<シュウユ>”、字は”公謹<コウキン>”だ。」 愚痴を零していた人を連れ戻しに来た人が先に自己紹介をした。 「私は”孫策<ソンサク>”、字は”伯符<ハクフ>”よ。 ここ、建業を治めているわ」 愚痴を零していた人の名は、孫策。 江東の麒麟児と謳われている英雄の一人。 もしかして…大変な人たちと、知り合ってしまった? 好都合かもしれないけど… 順序ってものを守ろうぜ… 運命って奴は――
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