第三章・呉

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「くっ……」 「どうしたの?そんなのじゃ直ぐに死ぬわよ!!」 少しの間も拮抗することなく闇夜は弾かれた。 体勢を立て直すため俺は雪蓮と距離を取った。 「来ないの?なら、私から行くわよ!」 雪蓮が倒れそうなほど体を前に倒して斬りかかってきた。 それをバックステップで辛うじて避けた。 さらに雪蓮からの追撃が。 これは避けることが出来ないと判断して闇夜を使って攻撃をいなす。 それからも攻撃は一方的だった。 俺は避けるか闇夜で攻撃をいなすことしか出来なかった。 そして………        † 「はい、終了」 闇夜は手から離れ、膝をついている。 雪蓮は剣を振り下ろそうと構えている。 「はっ……はっ………くっ」 無情にも剣は………振り下ろされた。 「甘ぇ!!」 しゃがんでいる状態から飛び上がり、雪蓮の手首を片手で掴む。 「?!」 「おらぁ!」 それから雪蓮の右腕を両手で掴み、背を向け、思いっきり下へと引っ張る。 所謂、背負い投げという奴だ。 投げた後は、手から剣を奪い取り首に添える。 「はい、終了」 「………演技だったの?」 「まぁ…一応」 剣をどけてから雪蓮の手を掴んで立たせる。 「ありがと」立たせた後、剣を返した。 集中が途切れたところで後ろの方がざわついているのに気付いた。 「おい、孫策様がやられたぞ…」 「なんて奴だ…」 「惚れた…」 おい!一人おかしい奴がいるぞ!!誰かツッコンでやれよ!! というか、兵の士気を下げてしまった! 「あちゃ~……やっちゃったね」 「すまん……つい」 「まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方が無いわ」 後味悪っ!勝ったのに悪っ! 「……流石、孫策様! 手加減してもらわなければ負けていましたよ!!」 大きな声でわざとらしく言った。 こういう演技は苦手です。 「へ……?え……?」 空気嫁!あ、違う。空気読め! 「こんな俺に花を持たしてくれるなんて!流石です!!」 「え……ま、まぁね! 小手調べとして”手加減”してあげたのよ!!」 「何時かは孫策様のように強くなりたいものです!」 「精々、頑張りなさい!」 うん、俺たちは演技に向いてない。 だって、イントネーションがおかしいもの。 「何だ、手加減してたのか」 「孫策様がやられるわけないよな」 「でも、孫策様に勝ったのは事実だぜ」 「凄かったんだな」 兵たちがアホでよかった。 本当に良かった。
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