第三章・呉

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       † 「たっだいま~」 「遅かったわね、雪蓮。 帰ってきたからちゃんとこの書類に印を押してもらうわよ」 「は~い」 私は桜香と戦った後、玉座の間に戻って仕事に取り掛かった。 「どうしたの? やけに上機嫌じゃない」 「さっき桜香と戦ってきたの~」 「はい?」 私の言葉に冥琳が手を止めた。 ちゃんと仕事してよね!もう! 「だからね、桜香と戦ってきたの」 「……遅かったのはその所為ね」 冥琳が手元の書類を再び見ながら答えた。 「うん、そう。 それでね、負けちゃった」 私も内容を見ずに印を押し続けた。 冥琳が押して良い書類とそうでないのと分けてくれるから簡単だ。 「そう……負けたの………負けたの?!」 冥琳の手がまた止まった。 対して私の手は止まっていない。 「桜香はそんなに強かったのか……?」 「分からない。 まともに戦ったら弱いのかもしれない。 今回は桜香の演技に引っかかってしまったけど……」 「そうか…………ん?」 「どうかしたの?」 「これは面白い……雪蓮、これを見て」 冥琳が不適な笑みを零しながら書類を渡してきた。 細作の報告書のようだ。 『一ヶ月ほど前に、盗賊、山賊が一斉に討伐された。 討伐した者はたった一人。 背丈は低く、全身黒の衣服と外套を纏い、一切の装飾の無い銀色の槍を持っていた。 単騎で敵陣に突撃し、敵を蹴散らしていた。 遠くからでも分かる殺気に敵は怯えそれは”虐殺”と言って良いほどのものだった。』 文章ではなく、箇条書きで書かれた報告書。 文を考える暇があったらいち早く報告しろ、と冥琳が言って皆がこのような箇条書きとなった。 見るほうとしても必要最低限のことしか書かれていないので楽なのだろう。 「背丈は低く、黒い衣服と外套を纏っている者……か、心当たりは無いか?雪蓮」 黒~い笑みを浮かべながら冥琳が私に問いかけてきた。 「在り過ぎて困っているわよ」 「冥琳様~、書類をお持ちしました~」 大量の書類を抱えた穏が玉座の間にやってきた。 「雪蓮、この件は後で問い詰めましょうか」 「そうね……今は……」 この書類の束を早くどうにかしないとね……… 「では、頑張りましょ~」 今晩は桜香の歓迎会があるのだから………気持ちよくお酒が飲みたいじゃない?
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