第三章・呉

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       † 城に到着し、玉座の間(宴会の時に聞いた)に入り、最初に見た光景は雪蓮が机にうつ伏せに倒れているところだった。 「…何があったんだ?」 「ただの書類整理さ」 冥琳が鼻で笑いながら言った。 会話がなくなり静かになったところで暗~い声が聞こえた。 「キツイキツイキツイヤダヤダヤダヤダヤダ」 「………ただの書類整理だった?」 雪蓮が呪詛を唱えるようにブツブツと呟いていた。 「ただの書類整理だ」 ただの書類整理だったそうです。はい。 「ん?その紙は?」 机の上にポツンと一枚の書類が置かれていた。 「これか?読んでみると良い」 ニヤリと企んだ笑みを浮かべ書類を渡された。 これほど意地の悪そうな笑みを見たことがあるだろうか…… 「えーと………」 今更、返却出来るわけも無く大人しく書類を読んだ。 どうやら、細作の報告書らしい。期日は……丁度俺が盗賊狩りをしてたころかな。 「…………………」 「おや?どうかしたか?」 冥琳は何て意地の悪い奴なんだ。 その笑みと言い、この書類と言い……… 「……それで?」 「言わないと分からないのか?」 「いや………うん、これは俺だね」 返答はこれでいいと思ふ。 心の中で少しボケながら自分を落ち着かせようと努力する。 まぁ……無駄なんですけどね。 「そうかそうか………ならちょっっっっっと頼みごとがあるんだが……」 本当にちょっとなのか? 強調しすぎてちょっとじゃなくなってる気がするんだが? 「まぁ……聞くだけなら……」 「そうか、引き受けてくれるのか流石桜香だな」 もう知らね。この人に何言っても無駄だ。 「明日に賊の討伐に行かなくてはならないんだ。 しかし、雪蓮は用事があっていけない。 私もそれに付いて行く。 祭殿は………何かあるだろう。 それでだ……お前に賊の討伐を任せようと思っているんだ」 「就任早々難しい仕事だね」 雪蓮と冥琳は兎も角、祭さんは何だよ。 何かあるって……誤魔化しきれてねぇよ! 無駄だから何も言わないけど! 「大丈夫だ、この報告どおりの武があれば一人で倒せるさ」 「俺そんな強くないよ?」 「お前に任せた。吉報を期待しているぞ」 強引に話し打ち切られた! せめて敵の数とか教えてくれ! 「ああ、言い忘れてた。 敵の数は500。 場所は正門から街を出て数里先の山だ。 さあ、晩御飯にしよう」 冥琳の教育方針は”獅子の子落とし”だな。
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