第一章・始まった物語

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今は父さんが持っていた本で文字の練習をしている。 後、ちゃん付けはしないで欲しい。 言わないのはもう言っても無駄だからだ。 この時代、文字を書けない者が多い。 だから、書けたほうが色んなところで有利となる。 「そんなの盧植先生のところに 行けば教えてもらえるんだから、今は遊ぼ?」 盧植先生とは塾の講師のような人だ。 俺たちは、そこに通わされることになっている。 「………はぁ……」 仕方なく手を止めた。 練習は紙には書いていない。 砂の上だ。 これなら何回でも文字は書けるし、金も掛からない。 「遊びに行こー!」 語尾に星や音符がついてもおかしくないほど元気に走っていく姉さん。 「……誘っておいてほったらかしかよ………」 それから姉さんの後を追って全力で走った。        † 近くの山にまで入ると、不覚にも姉さんを見失ってしまった。 「何処に言ったんだよ……」 草花が生い茂り、木々が林立している。 視界は最悪。 ましてや、子どもの背丈じゃ探そうにも探せない。 さらに言えば、背丈は小さい方だ。 「何処に……」 キャァァァァァ! 「テンプレ乙……っと…」 叫び声が聞こえた方向に全力で走る、ついでに武器になりそうな木の枝を拾っていく。 草を木の枝で払いのけ、目の前に避けれない木があれば、手をついて無理矢理、方向転換。 近場のはずなのに、その距離は遠く感じる。 草で頬も腕も切れ、足も乳酸が溜まっている。 「はっ……はっ……見つけたっ!」 赤に近い、桃色の髪を持つ幼女を発見。姉さんだ。 姉さんを襲っている何かは木で確認できないが、後退っている姉さんだけが確認できた。 「姉さんっ!!」 目の前の茂みを払い、姉さんのところに走った。 「桜ちゃん?!来ちゃ駄目!!」 姉さんは目を見開き、驚ている。 姉さんの前に行き、姉さんを襲う奴と対峙した。 そいつは、野犬だった。 人が相手なら、土地勘があるので逃げることも出来たのだが…犬にはそうはいかないな。 野犬一匹といえど子どもには大きな脅威である。 群れを作っていなかったのは僥倖とも言える。
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