あとひとつ

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――のまれ始めてる。神無月だけじゃねえ、全員動きが硬い。 白雲監督は組んでいた腕を腰に据えた。 4回裏、1アウト1塁。 ――ついに本腰か。むこうとしてもこの試合展開は予想外だろ。すこし早いが上位から始まるこの回、仕掛けてきても不思議じゃない。 すでに打席には4番の三澤が入っている。 相手ベンチに特に目立った動きはない。 ――それはそうか・・・。さすがに4番に小細工はないか。 杞憂に終わるといいが、と白雲監督は呟き守備位置の確認を後藤に促す。 外野の位置を下げ後藤はマスクを被った。 ――ゲッツー取れれば最高だ。ここをしのげるかどうかで決まる。 この回、翔のファインプレーで1アウトは取ったものの結果だけ見れば2連打されている。 配球も慎重にならざるを得ない。 「あきらめるんだな。よくやったと言っておこう」 不意に上から声が降ってきた。 一瞬の間の後、後藤はそれが三澤から発せられたものだと気付いた。 「余計な御世話だ」 売り言葉に買い言葉。 それだけ言い捨てサインを出した。 初球、インハイぎりぎりの直球。 右バッターの三澤にしたらかなり喰い込んでくる球になる。 しかし、三澤はそれをものともしなかった。 「ファールボールッ!」 審判が両手を上げる。 「ふん、ブラッシュボールとはくだらんことを・・・」 打球は三塁線ぎりぎりを駆けて行った。 ――あのコースをあそこまで引っ張るのかよ。 翔は苦笑いをしながら今いる位置より2歩ポジションを右に変えた。
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