序章

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 目が開けられぬ程の雨。ザアザアと地面に打たれ水滴が弾け飛ぶ。ずぶ濡れのフード付きパーカーに、黒っぽいジーパンを履いた少年が、ある物の前で立ち止まっていた。  にゃあにゃあと可愛らしく、そして何処か寂しそうな鳴き声が、少年の前の段ボールから発せられる。  雨でふにゃふにゃに潰れた段ボールの中に、恐らくアメリカンショートヘア、という種類の猫だろう。グレーの線が顔、体にある。  子猫。  円らな瞳が、少年の虚ろな瞳と搗ち合った。  子猫はふるふると寒さからか、体を震わせながら縮こまり少年を見上げている。それに比べ少年は、震わせる動作さえ見せずただ子猫を見下ろしていた。  明らかに捨て猫だった。  拾って下さい、と紙が貼ってある訳では無いが、路地の分かりやすい場所に、ご丁寧に段ボールに入れて放置されていた。
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