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「橋口ー」
「はい」
もう学校に用も無いので帰ろうと鞄を手に持つと、渡辺さんが後ろまで来て俺に話し掛けてきた。
「お前四時間目出てねーんだって?どーなんだいこのヤローめ」
おちゃらけた調子で渡辺さんは俺の額を小突いてきた。小さいくせに背伸びして無理してる。
「出てません」
「はっきり言うなよ。たく……単位足りなくなっても知らんぞ?私の授業を一回もサボらないのは嬉しいけどな」
「どういたしまして」
「どういたしましてじゃねーよ馬鹿ちん。それが普通なの。推薦狙うつもりで授業でろ」
「推薦なんか狙えるわけないじゃないですか。部活もやってないのに」
「ふーん。でも国公立の大学には行きたいんだろ?」
「そうですね。この学校の面接の時志望理由でそんな事言いました」
「……なぁんかさ、中途半端な不良だよなお前。悪く言えば不良だけど、良い風に言えばまだ素行が悪い生徒みたいな?」
みたいな?って言われても。
不良じゃないし。
「まぁとにかく。私の授業がいくら面白くて分かりやすいからって私の授業ばっか出るのやめろ」
「いや別に分かりやすくは」
「私の授業がいくら面白くて分かりやすいからって私の授業ばっか出るのやめろ」
「はい……」
そっくりそのままリピートしやがった。面白いの部分は納得できるけど。
ていうか普通の教師なら無理矢理にでも授業に出させようとするもんだけどな。
「あ、お前屋上行ったりしてる?」
「時々なら」
「気をつけろよ?高杉先生が提案して、屋上とか、立入禁止の所時々見回るみたいな事になってるから」
「先生反対して下さいよ」
「馬鹿言うな。お前に言ってもどうせ屋上行くのやめないだろうから、忠告だけでもしてやってんの。ありがたく思えよ」
「……ありがとうございます。それじゃ」
「おう。明日はサボるなよ」
約束はできず、曖昧な返事をすると俺は教室を出た。
◇ ◇ ◇
「げっ」
「げっ?げっ……なんだ?」
「…………。」
「おいおい、まさか忘れてたんじゃないだろうな?俺の存在を。そんなキャラクターしてるつもりはないんだがな」
忘れてた。
完璧に。
俺の帰り道のマンホールにはまっている自称サイボーグの変質者を。
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