変化の兆し

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「橋口仙利ィ!」 「……んぁ」 ポカポカとした陽気な天気の月曜日。机に突っ伏して眠っている俺の名前を誰かが呼んだ。 女の子の甲高い声。 レアチーズケーキをたらふく食べる夢を見ていたのに。誰だ俺の至福の時間を妨害するのは。 と思ったが、答えは既に出ているので顔を上げるのも面倒になり、俺は目を擦るとまた意識を遠のかせた。 今度はモンブランがいいな。 なんて俺のちっぽけな願いは。 「橋口仙利ィ!」 叶わなかった。 「…………。」 「橋口仙利ィイィ!」 「…………。」 「橋口仙利ぃいぃいぃ!」 「…………。」 「橋ぐ」 「うっせーなさっきからしつけぇよ一回呼べば分かるんだよこの野郎!」 「なら顔を私に見せて返事の一つや二つするのが礼儀というものだろう!だから貴様はアホなのだ」 「だからってなんだよ。返事をしないからアホってイコールで結ぶのおかしいだろハゲ!」 「うるさい。とにかく呼ばれたら返事をしろ!貴様には常識が足りないと何回言えば」 「黙れ死ね!」 ついカッとなり女の子に対してひど過ぎる言葉を吐いた俺は、枕代わりにしていた鞄を手に持つと席を立った。 胸糞悪いとはこの事だ。 いきなり大声で人を呼んどいて『貴様はアホだ』はないだろう。 「待て!何処に行く!」 「帰るんだよ。うるさくて敵わない。じゃあな針浦」 「話は終わってない」 「じゃあ早く言えよ」 「それに死ねとは何だ!?貴様はその言葉にどの程度の力があるかを考え」 「話をしろよ!帰る!」 我慢できなくなった俺は、奴の制止も聞かずに教室を飛び出した。 橋口仙利(せんり)。 16歳、高校二年生で思春期と反抗期真っ盛りの俺の名前。 「何なんだ針浦のやつ……」 そんな俺は、気の強い委員長気取りの女子(実際クラスの委員長だが)のせいで教室を出る羽目になってしまった。
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