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「あっ……」
そういえばアイツ、俺に何の用があったんだろうか。どうせろくな事じゃないんだろうけど。
放課後になったにも関わらず、気持ち良さそうに眠っていた俺が単に目障りだったのかもしれない。
最後の授業が自習で寝てしまってたんだけど……誰か起こしてくれてもいいんじゃないだろうか。
さすがに寂しいものを感じてしまう。アイツは俺を起こすために……いや、無いな。
一年の時もアイツとは一緒のクラスだったから分かる。アイツは俺の事嫌ってる。
まぁそんな事は置いといて、とりあえず……。
……とりあえず、何だろう。
帰って、何かやらなくちゃいけない事があるわけでも無い。やりたい事があるわけでも無い。
「……はぁ」
……自分でもびっくりするくらいのため息が出る。
本当に何やってんだろう、俺。
「おぅ、橋口」
「ん……渡辺さん」
職員室の前を通り掛かると、扉が開いて俺のクラスの担任が出てきた。
女でチビのくせに肝っ玉が座ってて、男勝りなところがある人だ。髪型はショートカットで、前髪をヘアピンでとめている。
「帰るの?」
「いや、まぁそうっすけど」
「よし、太鼓部入るか?」
「入んないですって……それ何回目ですか?」
「うちはいいぞぉ。部員は9割女の子。お前ならハーレムだハーレム!」
「……教師の言葉じゃないでしょそれ」
親しみを持てる人だけど。
そんなんじゃ生徒にナメられるんじゃないかといつも思ってしまう。
「ま、入りたかったらいつでも言いなよ。私はそれ、何も言わないからさぁ」
渡辺さんは、そう言うと俺の頭に視線を移した。
茶髪。
俺の髪の色は、生まれた時から母親譲りのブラウンだった。別に茶色って言っても良いけど、ブラウンのほうが響きが良い。
進学校である俺の通うこの学校では、茶髪は指で数え切れるくらいしかいない。
俺以外の人は多分染めてるんだろうけど。
「おっかしーよなぁ、地毛なんだから別に良いじゃんっての。お前もそう思うよな?」
「俺に言われても……」
同い年くらいにしか聞こえないように話しながら、渡辺さんは俺の頭をくしゃくしゃと触ってきた。
まぁ……親しみやすいのが良いのか悪いのかは知らないが、俺は嫌いじゃない。
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