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「ま、頭は良いから勉強してるみたいだし……何も言わないけどさ。もうちょっと青春を楽しみな、若者よ」
最後に頭をポンッと叩くと、渡辺さんはじゃーなーと言って俺が今来た方へ歩いていった。
若者って……渡辺さんもまだ20代の筈なんだけどな。
「……げっ」
離れていく渡辺さんの背中をボーッと眺めていると、そっちの方から生活指導を担当する俺の嫌いな先生が来ているのが見えたので、俺はそそくさとその場を後にした。
会う度に髪を黒にしろだの眉毛をいじるなだの、とにかく何かと俺に注意をする中年の男だ。
生徒手帳には髪の染色禁止って書いてある。染めた訳じゃないんだからいろいろと言われる筋合いは無いだろあのハゲ。それに眉毛剃ったり抜いたりだなんて生徒の半分はやっている。
単に嫌われてるだけなんてのは、あっちも隠すつもりは無いんだろうな。
皆渡辺さんみたいな物分かりの良い先生だったら良いのに。
「……それはそれで駄目みたいな気もするな」
いや……面白いだろうけど、学校に一人くらいが良いのかもしれないな、逆に。
県内でも上の方に位置する進学校であるこの学校では、堅苦しい先生のほうが圧倒的に多い。そんな事は予想してたし、分かったつもりで受験して、合格して、入学したつもりだったけど……。
今の心境は、正直ウンザリという所だった。
頭ごなしに叱り付ける教師に、茶髪や目つきが悪いってだけで俺を避けるクラスメート。
いや……確かに時々授業サボったりするけどさ、そんだけで不良だとか思わない方が良いよ本当に。
話してみないと分からないからさ、人間って。高二のガキが大人ぶってカッコつけてるだけにしか聞こえないかもしれないけど。
第一印象が強いとそりゃあどうしても引きずっちゃうけどさ。
人間は第一印象じゃないから。
……とか考えてた少し前の俺をめちゃくちゃ張り倒したい。いやひき千切りたい。俺は間違ってましたって原稿用紙に書き詰めさせた後、小一時間説教したい。
いつものように学校を出て数分。
人通りの少ない住宅街の道。
ケータイをいじりながら歩いていたせいか俺がそれ……いや、そいつに気付いたのは、そいつの数メートル前に来てからだった。
「――よう」
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