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「へ?」
今日という日の一番の過ちは……この声に反応してしまった事かもしれない。
いや、でも声をかけられたら誰だって振り向いたりすんじゃん?仕方ないだろ。
「……うん?あれっ?」
顔を上げて周りを見渡した俺は、近くに誰もいない事を確認した。
遠くに見える人はいるが、どう考えても今のは近くから聞こえた声だった。遠くから叫んだような感じじゃない。
「……空耳か」
そう呟くと、俺は再びケータイに目をやって歩きだした。
だが。
「おい」
また聞こえた。
「?」
俺はものっ凄い勢いで振り返った。だけど数秒前と変わらず、そこには誰の影も無かった。
おかしい。
今のは絶対に聞こえたはずだった。空耳でも何でもない。それなのに、周りには誰もいない。
……霊的なアレかな。
「おい」
「……っ!」
分かった。
目を閉じ、耳をすましていたから気付く事ができた。
この声は下から聞こえてくる。つまり地面。
考えたら分かる事だが、道を歩いてて普通は下方から声をかけられるなんて事は無い。
「おい……ここだよ」
俺の中に変な緊張感が流れる。
恐る恐る目を開けると、俺は前に向き直り、少しずつ視線を下にやった。
「ここから出してくれねぇか」
……………………え?
ん?
ちょ………………は?
「優しくな」
「…………。」
驚きが言葉を無くす。
下を見た俺の目に入ってきたのは。
マンホールにすっぽりはまった、見知らぬ良い男だった。
「えっ、あの……俺、ですか?」
「面白い事を言うな?今この境地に、俺とお前以外に誰がいる」
「そう……っすね」
ちょっと待て。
いや結構待ってよ。
なんなわけ、この状況。こんなシチュエーション人生初めてだからどう対処するのが正解なのかわからない。
シカトが一番だろ。
でも返事しちゃったどころか少し言葉交わしちゃってんじゃん。手遅れじゃん。
「お前、橋口仙利だな?」
「えっ!?」
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