変化の兆し

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「…………。」 「おい、シカトは無いんじゃないか?」 「……何してるんですか?」 「何をしてるか……か。恥ずかしい話、今はこのシチュエーションを打開するためのエネルギーが不足していてな」 エネルギー? ああ……なんかサイボーグだとか言ってたっけな。ていうか誰か通報しろよ。 「そこで……俺にこのシチュエーションを脱する良い案がある。聞いてみたくないか?」 「聞きたくないです」 「ふふっ……無理をするな、この知りたがりが。心して聞けよ?」 だからお前も俺の話を聞け。 「お前、今サイフ持ってるか?」 「まぁ、一応」 「よし。じゃあリポピダンDを買ってきてくれ」 ……は? 「悪いんですけど、もう一回言ってもらえますか?」 「ん?ああ、良いだろう。サイフを持ってるなら、そこら辺でリポピダンDを買ってきてもらいたいんだが……」 ……何がしたいのかまったく分からん。 飲んでファイト一発って言いながら力めばマンホールから出られるとでも思ってるのかこの変態。 だとしたら、買ってきてやっても無駄骨だろ。 「すみませんけど、俺今から学校あるんで」 「何?そうか、そういえば……今日は水曜日だったな。じゃあ帰りで良い。学校の帰りで良いから、買ってきてくれないか」 いや流石に……平日の真昼間からマンホールに上半身裸の男がはまってたら、誰か通報するだろ。 通報されないなら、この街の人間はどうにかしてる。子供を変態から守ろうとする意識が足りないと思う。 と、そういうわけで、この変態も放課後までには通報されてブタ箱に入ってるだろうと思い、俺は曖昧に了承の返事をした。 「もし放課後に俺がここからいなくなっていても、再びお前の前に現れるから安心しな」 「えっ?な、何でですか……?」 「当たり前だろう。俺は……橋口仙利、お前に用があってわざわざこの時代に来たんだからな」 ……いや、やっぱりブタ箱より精神病院行きかもしれない。 「ははっ……そ、それじゃ」 「いってらっしゃい」 「…………。」 人生初、いや多分人類初、俺はマンホールに入った良い男からいってらっしゃいを言われ、登校することになった。
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