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その後、少し気になったので時々振り返りながらその道を進んでいると、その度にウインクされた。
何でだろう。
男前なんだけど、吐き気がした。
得体の知れない感覚に、俺は学校に向かう足を急がせた。写メでも撮っとけば面白かったのかもしれないが、冷静なフリして結構テンパってたから仕方ない。
とまぁ、学校に着くまで、俺の頭の中はあの変態の事でいっぱいだった。
ん……何か語弊がありそうだから言っとくけど、別に好きじゃないから。一目惚れとかしてない。ツンデレとか無しで。
興味は沸くけどさ。
「おい」
それより、道路の真ん中のマンホールにはまってたら普通車に轢かれるだろ。
「橋口」
この街やっぱり少しおかしいんじゃないだろうか。
「橋口仙利!」
「はっはい!」
校門に入って少ししたところで、いきなり大声でフルネームを叫ばれた。あの変態の事を考え込んでいたせいで、突然の事に声が少し裏返る。恥ずかしい。
「なんだ針裏お前か……」
俺の背中の約5m後ろに立っていたのは、我がクラスの堅物委員長だった。
「なんだ針裏で悪かったな。ちょっとこっちに来てみろ」
「……なんで」
「……第一ボタンは開けっ放し、ズボンは下にずらして履きすぎ、ローファーの踵は踏むな!」
「…………。」
針裏のぼり。(はりうら)
成績優秀とか……そういう四文字熟語を沢山並べて紹介するのが一番似合いそうな、生真面目な人間だ。
事あるごとに俺を注意してくるお節介。しつこいしうるさい。
そのくせ人気があるから何か腹が立つ。毎日どんだけトリートメントしてんだよって言いたくなるような綺麗な黒髪を後ろで纏め、制服をキチッと着こなしている。
顔は……コイツの事だから化粧なんてまったくしてないすっぴんのくせに、白い肌と、整えたんじゃないかってくらい綺麗な眉。
まぁ……これでおっとりしたタレ目なら良かったんだが、性格を表したかのような鋭い目つきをしている。
「何回注意したら気が済む?」
「針裏、あそこ。第一ボタン開けっ放しの奴いるぞ」
「今は貴様だ」
「ふざけんなって……。お?おい、あそこに俺より酷い奴いるぞ。ボタンじゃなくてチャック開けっ放し」
「チャックは……故意じゃないから良いんだ」
そういう問題じゃあない。
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