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「お邪魔します、っと」
「ど、どうぞ……」
歩けるようになった瑠奈と共に、澄輝はアパートの一室を訪れていた。ここが、現在の瑠奈の部屋であるようだ。
自室らしき所は桃色ゾーンが形成されていたが、他の場所はこれといって変わったものはない。
「とりあえず、怪我はないんだよな?」
「あ、うん」
怪訝そうな顔をする瑠奈に首を傾げつつも、澄輝の関心は他へと移る。
「コレ……どーする?」
「えっと……一応、冷蔵庫に入れとこうかな」
ぶちまけてしまった買い物の商品。その中から使えそうなものだけを選別し、持ってきたのだ。
仕送りの決まった金額で一ヶ月を生活しなければならないため、少しの無駄も許されないのかも知れない。
「結構遅いけど、夕飯は?」
「……食欲ないから」
うつむく瑠奈に、澄輝は言う。
「まあ、無理にとは言わないが、出来るだけ食った方がいい。人間ってのは、そういう生き物だろ」
それを聞いて言葉を失う瑠奈を横目に、澄輝は話を続ける。
「で、もし、軽く何か食べるなら作るけど?」
口調をやわらげ、軽い笑みと共に澄輝は訊ねた。
すると、意外そうに瑠奈が口を開く。
「羽間君って、お料理できるんだー」
「出来てわりぃかよ……?」
「あ、そういうんじゃなくて、ちょっと意外だったから……」
「まあ、そうだろうな」
そんな事を言いつつ、澄輝はキッチンへと向かった。買い物袋の中身をチェックしながら、冷蔵庫を開ける。
──この材料で作るなら……
何やら思案し始めた澄輝。その姿をぼんやりと瑠奈は眺める。
「少し、横になって待ってろ」
「え? う、うん」
瑠奈が言われた通りにベッドへ向かったのを見ると、澄輝は調理を始めた。
まず、使う野菜を適度な大きさに切り、それをレンジに放り込む。
そして、フライパンを火に掛け、そこに油を引く。と、ここで、キッチンペーパーでその油を拭き取った。
──女って、結構気にするだろうからな……
それは、彼なりの優しさだった。こうする事で、脂肪分を減らそうというのだ。
肉を入れた瞬間、ジュッ、という景気のよい音が響いた。肉というのは部位にもよるが脂肪が多いため、これでも料理に支障はない。
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