†一章† この世界の裏の裏

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††††††††  澄輝の住む家は、開発途上都市の神凪市(カンナギシ)内にある。この、神凪市という場所は、その敷地を私鉄が南北に分断しており、北部を住宅街、南部を都市部としている。  澄輝の住む家は北部にあり、当然彼もそこに向かっている。瑠奈のアパートは都市部にあったため、線路を跨(マタ)いで行かねばならない。 「はぁ、めんどくせえ」  ヴァンパイアの気配を感じて、都市部に出向いてみれば、小物が一匹。しかも、その小物すら取り逃がしてしまった。  ──遙火にぶっ殺される……  同じ《薔薇十字団》の魔術師、火之神遙火(ヒノカミハルカ)。一月前に知り合ってから、何かと澄輝につっかかってくる少女だ。  一月前というのは、澄輝が《薔薇十字団》に入団した時でもある。彼女の初対面の言葉というのが「ヴァンパイア並にキモい容姿ですねー」だから、最悪の第一印象である。  ただ、澄輝も自分の半身の色素の薄さは自覚していたので、何も言い返せなかったのだが。 「あー、報告誤魔化せねえかなぁ」  ヴァンパイアハントは、本部の方に報告する事が義務付けられている。それは、敵を取り逃がした時も同様だ。  めざとい遙火の事であるから、取り逃がした事を報告すれば、また面白くない事を言われるだろう。  そんな事を憂鬱に考えていると、既に自宅の近くまで来ていた。ヴァンパイアの血が半分流れている澄輝の身体能力は並ではなく、脚力も例外ではない。  そして、亡き父が遺した我が家のドアに、鍵を差す────が、  ──開いてる……?  鍵を掛け忘れたはずはない。かといって、合鍵を誰かに渡した記憶もない。  澄輝は警戒しながら、ゆっくりとドアノブを回し、玄関の戸を開ける。  ガチャリ、と金属的な音が響いた。 「あー、もー遅すぎですよー」  酷く抑揚を欠いた声と共に、左の頬を何かがかすめた。視界に少女、遙火の姿を収めると同時に、左頬から血液がタラリ、と伝うのを感じる。 「ちょ、てめぇ! 銀製品を投げつけるな!」  ヴァンパイアは銀に弱く、その素材でつけられた傷に対しては再生能力が上手く働かない。混血のダムピールでも、それは同じ事だ。  ──ん……?  澄輝は、ようやくこの状況のおかしさに気付く。 「何で遙火が俺んちにいんだよ!?」
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