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「えー、いちゃ悪いですかー?」
全く悪びれた様子もなく、遙火は言う。
「四大元素プラスアルファを操れば、鍵を開けるなんて造作もないですよー」
「やり方を訊いてるんじゃねぇよ。whyだ、why! 何でお前がいるか訊いてんだよ!」
ゼーゼー、と肩で息をしながら、澄輝は眼前の長髪に訊ねる。
とりあえず中に入り、ドアを閉めた。
「そうですねー、言うなれば貴方の援護ですよー」
──援護……?
唐突な事に、澄輝は首を傾げる。果たして、そんなものを本部に要請しただろうか、と。
すると、遙火が澄輝の疑問に答える。
「今、この街がヴァンパイアの多発地域なんですよねー。それで、私が派遣されたってわけですー」
「……そんな話、本部から全く聞いてないぞ?」
ここ数日の生活を振り返るが、遙火が来るような連絡は受けていない。どちらかと言うと、それを口実に嫌がらせに来たような感じだ。
「それもそのはずですねー。書類は手を回して届かないようにしましたからー」
「…………まさか、さっきのドッキリをやるためとか言わないだろうな?」
その言葉に、遙火は僅かに無表情を笑みの形へと歪めた。
「図星かよ!!」
脱力した澄輝は、フラフラとリビングへ向かい、ソファに腰を降ろす。遙火のアホみたいな行動に溜め息を吐きながら、静かに目を閉じた。
「そんな事よりですねー、何やってんだてめぇですよー」
「は?」
「とぼけても無駄ですからー。ヴァンパイアを取り逃がすなんて、私がフォロー入れなきゃどうなっていた事やらなのですよー」
澄輝は理解した。彼が最も恐れていた事態が、バリバリ現在進行形である事を。
「す、すまん」
「すまんで済まないから怒ってるんですよー。全くいつもいつも……」
「わりぃ、ありがとうな」
彼が誓っていた日常を守るという行為は、ヴァンパイアを逃がす事は許されない。澄輝は、遙火がそれを代行してくれた事が素直に嬉しかった。
「べ、別に自分の責務を果たしただけです……」
何故か赤くなる遙火。澄輝はそれを見ながら、ふと、提案を口にする。
「お前、飯食ったか? まだなら、俺のと一緒に作るけど」
「外食しましたけど、お願いしますですー」
「食い過ぎは太るぞ?」
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