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「う、うるさいですー!」
真っ赤になりながら叫ぶ遙火。
その爆発物並に危険すぎる物体を尻目に、澄輝はそそくさとキッチンに消える。
「あー、だりぃ」
思わぬ人物の来訪は、澄輝の精神に相当のダメージを与えたようだ。
そして、そこに加えて腑に落ちない点が一つあった。
──あいつ、どこで生活するつもりなんだ?
確かに、この街には泊まる場所ならいくらでもある。しかし、それにも限度があるだろう。
ヴァンパイア根絶を目的とした援護なら、それなりに長期になるはずだ。
さすがに、ホテル等の宿泊施設を長期で使用すれば目立つ。かといって、開発途上都市の神凪市では、アパートやマンションの空きを探すのは至難の業だ。
「そうそう。私、今日からここで暮らすのでよろしくなのですー」
「は!? 何だその不意打ちイベントは?」
「やっぱり、宿泊施設は目立つし、費用もかかるのですー」
とんでもない発言に、澄輝はどっと疲れを感じた。
「……悪夢だ…………いや、ここで言う悪夢は精神に干渉するタイプではあるが、むしろ俺は遙火の存在自体に不快感を感じているからこれは悪夢の顕現と言うべき事象であって……」
「はいはーい、現実にとっとと戻って来ないと料理を焦がしますよー」
「あ! いけねっ!」
「言わんこっちゃないですねー」
やれやれといった感じで遙火は溜め息を吐くが、澄輝は知った事ではないと思う。
著しく常識を欠いた人間に、料理の事をとやかく言われる筋合いはない。
澄輝は炒めものを二枚の皿に(焦げの大部分は遙火用の方へ)盛りながら、(何気ない仕草で)テーブルへと運ぶ。
しかし、置いた瞬間ソッコーで皿を入れ替えられた。
「全く、何て陰湿な事しようとしてるんですかー…………それより、ちょっとした情報があるんですが、聞きますー?」
「あ? 情報?」
「はい。ヴァンパイアに関するとっておきのですよー」
──ヴァンパイアに関する情報……?
火之神遙火は、眠そうな顔をいつも浮かべながら、抑揚のない声で適当な事をいってるアレな女だが、仕事に関しては至って真面目だ。
澄輝にしょっちゅう絡んでくるのも、どこか抜けている彼に対して、真剣に腹を立てているからである。事実、これまでも遙火から情報をもらっていたのだが、その言葉に嘘は一つもなかった。
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