†一章† この世界の裏の裏

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 澄輝は、おふざけモードから頭を切り換える 「あのですねー、ヴァンパイアは大きく二種類に分けられるそうですー」 「二種類?」 「はい。《始祖(シソ)》と《死鬼(シキ)》の事ですー」 「……それならとっくに知ってるぞ? 《始祖》ってのが元々いたヴァンパイアで、《死鬼》ってのが噛まれた人間から生まれたやつだろ?」  期待をくじかれ、澄輝は真剣になった自分を後悔した。  やはり、遙火は遙火なんだと、改めて認識する。  しかし、 「じゃあ、その《始祖》ってのはどこからくるのでしょーか?」  ──………………  澄輝は、言葉が見付からなかった。あまりにも当然の疑問に、全く気が回っていなかった。 「まさか……」  澄輝は、ごくり、と唾を呑む。 「その出所が、ようやく分かったんですよー。大きな前進ですねー」 「で、その出所ってのは!?」 「焦らなくてもいいのですー。まだ仮説の段階なんですがねー、《覚醒因子(カクセイインシ)》を持つ人間の存在が疑われているのですよー」  そう言って、遙火は炒めものを摘んだ。無表情の口許が僅かに綻(ホコロ)ぶのを見ながら、澄輝は訊ねる。 「で、その因子を持ってるやつがヴァンパイアになるんだな?」 「はい。生前はごく稀(マレ)に、死後は百パーセントの確率で変態するのですー」 「マジかよ……」 「あくまで仮説ですからねー、鵜呑みには出来ませんが、信憑性はありますよー」  味噌汁をすすりながら、ふと考える。 「って事は、その因子さえなくなればヴァンパイアは消えるんじゃねえか?」 「そう簡単にはいかないのですよー。因子が形成されるメカニズムも分かってませんし、ヴァンパイアの吸血行為でも《死鬼》は増えてしまうのですからー」 「……もしかして、俺らって相当不利な闘いをしてんじゃ……」 「今頃気付くなんて遅いのですよー。全世界の《薔薇十字団》における行動部隊が千人に対して、ヴァンパイアは一万五千はいると言われてますからねー」  多勢に無勢とはこの事だろう。いくらなんでも、十五倍の軍勢を敵に回して勝てる見込みがあるはずない。  しかし、それが本当に十五倍の軍勢の話ならだ。 「だけどよ、《死鬼》ってのは太陽光で灰になるんだから、実質俺らの敵は《始祖》だろ? ……まあ、一般人を守るなら《死鬼》も倒さなきゃいけないだろうがな」
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