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学校へと向かう道すがら、澄輝は早くも一日を終えた後のような疲労感にさいなまれていた。
それというのも、一人の少女のために他ならないのだが。
「………………」
彼の隣を歩く、火之神遙火。長い黒髪を背中まで伸ばし、彼女が一歩を踏み出す度にそれがさらさらと揺れる。
顔はどちらかというと童顔で、目は大きく見える。それぞれのパーツは整っているのだが、眠たげというか無表情というか判断しかねる表情を常に浮かべており、それがいくらかマイナスに働いているのが澄輝の気になるところである。
しかし、可愛いかと訊かれれば、首を縦に振らざるを得ないだろう。火之神遙火とは、そんな少女だった。
「……のですよー。聞いてやがりますですかー?」
「……ああ、わりぃ。で、何か言ったか?」
考え事に没頭していた澄輝は、遙火の声など全く届いていなかった。
「全く、やっぱりヌケサクなのですー。ところで、星嶺学園ってどんな所なんですかねー?」
私立星嶺学園。神凪市に存在する唯一の私立高校で、四つ存在する高校の中では最大の規模を誇る。
生徒数は学科が細かく分かれている関係で、学年につき千人に達するくらいだ。充実した設備に加え、整えられた学習環境など、全国で最大クラスの進学校と言えるだろう。
洋風な校舎のデザインや、中庭等の造りなども、全て世界的な設計士によるものらしい。
極めつけは、経営に関する全ての経費が日系二世のアメリカ人の校長(現在失踪中)の莫大な個人資産でまかなわれているというから驚きである。
そして、それらを総括して澄輝は一言述べる。
「とんでもねぇ学校だよ。あそこは……」
「なんなのですかー? 物凄く適当なコメントですねー」
しかし、そう言われても言葉が見付からない。
星嶺学園の設備というのは、そこらの大学以上の水準を誇っており、加えて進学率も全国クラスだ。
澄輝の言った“とんでもない”には、言葉で表現する事が億劫(オックウ)になる程の意味合いが込められているのである。
「そろそろ見えてくるから、自分の目で確認しろ」
「そんなー、冷たいですねー。ラビットハートの遙火さんは、構ってくれないと死んじゃうんですよー?」
「お前がくたばってくれた方が、地球環境に優しいと思うんだ、がッ!」
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