2218人が本棚に入れています
本棚に追加
突然繰り出された遙火の裏拳が、ノーガードだった澄輝のみぞおちに突き刺さる。
咳き込みながらも、澄輝は必死で言葉を繋いだ。
「お前は、冗談が通じないのかよ……」
すると、遙火はすねたように口を尖らせる。
「全く。貴方はレディーに対する口のきき方をですねー…………って、訊きますが、もしかしてですよー……?」
遙火の視線の先を目で追い、その延長線上に存在する物体を認識すると、何でもなさそうに澄輝は口を開いた。
「ああ。そこが私立星嶺学園だよ」
そこは、一言で表すならとんでもない場所だった。
遠方から見ているにも関わらず、馬鹿でかい校舎が嫌でも視界に入ってしまう。しかも、そんな感じの建物が二つ並んでいる。高等部と中等部だ。その二棟の校舎に挟まれている空間が共有の校庭であり、それも標準より大きめだ。
「とんでもないですねー」
「だから言ってんじゃねえか……」
脱力感に見舞われながらも、澄輝はその無駄に大きな校舎を目指して歩く。
程なくして正門にたどり着き、他の生徒と同様吸い込まれるようにして敷地へと踏み入った。
転校とあってか、遙火も無表情の上に少しの興味を浮かべている。
澄輝たちの方へ、道行く生徒がちらほら視線を向けるが、恐らく遙火のせいだろう。
遙火の容姿は人目を引く程度には整っているし、張り付けたような無表情もクールな雰囲気を出している(好意的な解釈に過ぎないが)。
そんな、恒常的に無表情な遙火だが、澄輝は最近、ようやく僅かな感情を読み取る事が出来るようになった。
嬉しければ口許が僅かに綻ぶし、怒っていれば目が据わってくる。照れれば頬が赤くなるし、気に入らなければ口を尖らせる。
本当に微妙な変化なのだが、全く感情を顔に出さないというわけではないのだ。
「何ですかー? 人の顔を舐め回すように見つめてー」
「いや、そんな下品な事してないから」
「下品ー? それはどういうニュアンスで言っているんでしょうねー」
──ヤバいヤバいヤバい…………目が据わってきやがった……
常日頃なら、遙火は次の瞬間キレる。少しでも逆鱗に触れるような言い回しをすれば、銀製武器によって消えない傷(肉体的にも精神的にも)を付けられるのだ。
これまでも、遙火の扱いに手を焼いてきた澄輝だから断言できる。
最初のコメントを投稿しよう!