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が、しかし、
「よう、羽間」
事態は、突然の闖入者(チンニュウシャ)によって中断された。
澄輝が自分の肩を叩いた張本人の方へ向くと、見知った短髪が笑顔を浮かべている。
「……何だ、高野?」
歩くスピーカーという異名を持つ男、高野隆志(タカノタカシ)の姿があった。
「何だとは何だよー、爽やかな朝の挨拶に決まってるじゃないか」
快活な笑いと共に、隆志はその大きな手で澄輝の背中をバシバシと叩く。
「いや、お前の目的は…………コレだろ」
澄輝が遙火の方へチラリと視線を向けると、傍目には無表情な顔が彼を向く。
隆志は虚を突かれたようにうろたえると、取り繕うように口を開いた。
「い、いやー、お前が女連れてるなんて珍しいなあ、と思ってよ」
「……高野、言い訳はよせ。ただし、コイツは地に堕とされた黒翼の天使か、宇宙空間を統べるダークマターだと忠告、をッ!?」
茶色く平べったい学生鞄が、鼻を砕く勢いで澄輝の顔面を打った。そのまま彼の体が傾き、地面に叩き付けられ、物凄い衝撃と音に無用な注目を周りから集める。
鼻の頭に熱を感じながら、澄輝は大の字で伸びていた。
「何トリップしかけてるんですかー。とっとと戻って来ないと遅刻しますよー?」
「へんじがない、ただのしかばねのようだ……」
打ちのめされた澄輝は、そんな事を言えば追撃が来ると知りながらも、言わずにはいられない。
「右半殺しと左半殺し……、どっちがいいですかー?」
「じゃ、左で」
即答する澄輝。ヴァンパイアの形質が現れている左半身は不死なので、遙火のこの問いには条件反射的にそう答えてしまうのだ。
澄輝がグダグダと寝っ転がっていると、突如、視界に手が差し出された。
意外な事に、遙火から。
「ほら、さっさと立つのですよー」
「ああ、わりぃ」
澄輝は体の土埃を払いながら、遙火の手を取り立ち上がる。
その光景をうなだれながら見ていた隆志は、ぽつりと一言囁く。
「なんだ……オメーらデキてんのかよ」
「ばっ! 馬鹿言うなよ! 誰がこんなやつなんかと────
そして、言いかけた澄輝のみぞおちに、無情にも遙火の拳打が炸裂する。
「そうですよー、だ、誰がこんなのなんかと……!」
「そこで何故、俺を殴る必要がある!?」
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