†一章† この世界の裏の裏

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 澄輝は絶叫しながら、目に浮かぶ涙を拭いつつ、校舎へ向けて走り出した。ダムピールだとバレない程度に力を抜いて。  ── 一体奴は何なんだ!? 何故俺に対して暴力的なんだ!?  フェルマーの最終定理の証明と並ぶ難題に、澄輝は思考をフルに展開する。  しかし、周囲の景色だけが流れていくばかりで、遙火の謎はヴェールに包まれたまま解らない。  高等部の昇校口にたどり着くと、二年F組の下駄箱に向かい、そこで上履きに履き替える。  そして、転校生である遙火の事は、隆志がどうにかするだろうと決めつけ、無駄にややこしい造りをした校舎の三階を目指して歩き出す。  白抜き六角形というふざけた形状の校舎は、一階が職員室等が並ぶ管理区画になっており、二階は一年、三階は二年といったように階を重ね、最上階の五階は特別教室が並んでいる。  渡り廊下は二階から四階に存在し、二辺を一組にしながら一つずつずれて、対辺同士を結ぶようにある。  そして、刳(ク)り貫かれた六角形の中央スペースは、光と影が交錯する中庭になっており、噴水やらベンチやら緑葉樹やら、もはや何でもアリだ。  ちなみに、星嶺学園の生徒にとっては、市内でも屈指のデートスポットでもある。 「あー、今日は疲れた……」  まだ朝にも関わらず、燈輝は一日を終えた後のような疲労感を吐露しながら、教室の戸を開けた。  見知った何人かが朝の挨拶を口にするが、澄輝はよろよろと自分の席へ向かう。鞄を机の横に掛けると、そのまま突っ伏した。 「何だ? 今日はいつにも増してだらしないな」 「わりぃかよ、恭」  澄輝が顔を上げると、長身に眼鏡の七海恭(ナナミキョウ)が腕組みをしながら立っていた。 「幼馴染みとして、たとえお前が何であろうと、諭す時は諭さねばならん」 「へいへい、ちっと昨日から予想外の事が立て続けに起こってんだよ……」  七海恭は、一般人でありながら澄輝の正体を知っているごく僅かな人間だ。だからといって、非日常の領分を侵そうとはせずに、自分の立場をわきまえている。  澄輝の願いを汲み取っての事だが。 「ふむ、多少興味があるな」 「心配しなくても、じきに分かるさ……」  ガラッ、と盛大に教室の戸が開き、隆志が転がり込むように中へと入ってきた。そして、大きく息を吸い込み、叫ぶ。
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