†一章† この世界の裏の裏

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††††††††  現在、神凪市には特Aクラスの厳重警戒態勢が展開されている。  というのは、神凪市を取り囲むような円環状に魔術師を配置し、ヴァンパイアの侵入を未然に防ごうとの事だ。  神凪市という場所は、何故かヴァンパイアの侵入が多発する。それが、世界最大のヴァンパイア組織である《白銀の月夜》の意向なのか、単なる偶然なのかは解っていない。 『────こちらスコーピオン、都市北西部に魔術反応を確認。至急応援を頼む』 「了解。現場へ急行する」  そう言って、コードネームパンサーは、霊符通信術式をポケットにねじ込んだ。そして、恐らくヴァンパイアによるのであろう、魔術発動地点へとバイクに跨(マタガ)り向かった。  ヴァンパイアは、一般人の目から自分たちの存在を隠匿(イントク)するために、気配抹消の魔術を使用する事が多い。  しかし、大多数の一般人から身を隠そうとすれば、魔術師たちに感付かれるというデメリットもある。  それでも、彼らは魔術を使い、神凪市へと侵入を繰り返しているのだ。  ──昼間…………という事は、《始祖》か。  一般に、ヴァンパイアの(始祖)は太陽光に強く、その眷族(ケンゾク)である《死鬼》は太陽光によって灰と化す。  つまり、昼間に活動している時点で、《始祖》以外とは考えにくい。  大分バイクを走らせると、住宅街でもさらに静かな北西部へと近付いてきた。周辺の建物の密度が、段々と小さくなってゆく。  ──しかし、何故神凪市なんだ……?  ヴァンパイアが《白銀の月夜》を結成し、活動を開始した去年の末頃から、この神凪市では激戦がたびたび繰り返されていた。  敵の組織の狙いは明らかに神凪市一点であり、事実、日本に出没したヴァンパイアのほとんどが神凪市に限られる。  そして、《薔薇十字団》はある結論に達した。  ──やはり、魔術的に重要なポイントなのか……  土地というものには、魔術的に重要な意味合いを持つ場所がある。例えば、霊峰として有名な恐山であったり、妖魔のたゆたう結界の都、京都のような所だ。  これらのように、神凪市にも何かヴァンパイアたちにとって有益な霊力が働いているのではないかという事である。  パンサーは額の汗を拭いながら、進む方向を修正する。  その時、霊符通信術式に連絡が入った。
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