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『──こちらスコーピオン…………パ、パンサーは、来るな……』
「どうした!? スコーピオン!」
通信に混ざって聞こえてくる金属音やら爆発音、そして人間の叫び声に、パンサーは事態の深刻さを悟った。
しかし、彼は既に現場の目と鼻の先という所まで来てしまった。今さら引き返す事も出来ず、スコーピオンの言葉を待つ。
『まずい…………三十人の部隊が、ほぼ壊滅…………俺がいる路地も、いつかバレるだろう……』
「何だと!? ヴァンパイアハンターの精鋭部隊が…………たった一体の《始祖》に!?」
危うく運転を誤りそうになりながらも、パンサーは現場へと向かう。
しかし、スコーピオンの言葉が本当なら、過去に例を見ない程に強力なヴァンパイアだ。
『……お前は、至急本部に連絡しろ…………決して、こっちに来るな……でなくば──────ッ!』
ジャラジャラという鎖を引きずるような音が通信に割り込んだと思った瞬間、スコーピオンが言葉にならない絶叫を上げた。
そして、まるで業火に焼かれるような炎の爆(ハ)ぜる音が耳に届くと、通信が強制的に落ちた。
──……クソッ! 殺られたか……!
パンサーはさらに速度を上げ、せめて敵の顔くらいは拝もうと、細い路地へバイクで突っ込んで行った。
すると、少し進んだ所に、消し炭のような黒い人の形をした何かを見付ける。
人の、残骸。さっきまで、スコーピオンだったモノ。
「クソッ!」
パンサーは霊符の通信術式を組み替え、仮想ヨーロッパ座標の《薔薇十字団》本部へ繋ぎ直すと、スコーピオンだったモノを見つめて、ゾッと身を震わせた。
術式が展開し、しばらくして相手と音声が繋がる。
「こちらパンサー、緊急事態だ! 神凪市の関門部隊が、俺を残して全滅した…………何でもいいから、早く応援を頼む!」
『こちら御巫、すぐに異空間経由で人員を送るわ。パンサーは安全な場所に避難しなさい』
御巫(ミカナギ)と名乗った女性は、至って冷静にそう言った。
パンサーはスコーピオンの遺志を果たした事に、一瞬安堵し────
じゃら、
その極めて金属的な響きの音に、心臓を握り潰されるような感覚に陥った。
段々と、その鎖を引きずるような乾いた音が、パンサーに接近してくる。
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