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午前の授業を終えた、昼休み。
澄輝は朝と変わらず、机に突っ伏しながら昇天しかけていた。
転校生の紹介の後、クラスメイトから散々質問(尋問とも言う)を受けながら、なんとか“澄輝と遙火はデキている説”を否定し、校内を遙火に案内して今に至る。
生徒の喧騒を聞き流しながら、澄輝はゆっくりと背筋を伸ばした。
そして、彼の手による弁当をショルダーバッグから取り出すと、机に置いた。
「ほらー、いつまでもグータラしてんじゃねぇですー」
「……うるせえ、こっちは死ぬ程疲れてんだよ」
弁当の包みを広げながら、澄輝はムッとした様子で隣の遙火に言葉を返す。
そして、何を思ったか、彼は弁当を包み直した。そのまま、席を立つ。
──あー、だりぃ……
気分転換に、中庭にでも行って昼食を摂ろうかと思ったのだ。
「どこ行くのですかー?」
「うっせえ、探さないで下さいだー!」
涙の尾を引く勢いで、クラスメイトの視線を背中に受けながら、澄輝は教室を飛び出した。
ダムピールの力を抑えつつも、物凄い勢いで走り出す。
無駄にややこしい造りの校舎を走り、渡り廊下を突っ切り、階段を転がるように下りる。
六角形の辺の部分を駆け抜け、職員室の前もお構い無しに走り去る。
やがて、昇校口をいつもとは反対方向に進むと、学校には場違いな空間が現れた。
「……いつ見ても、亜空間だ」
何だか知らないが、どこぞの有名デザイナーによる設計らしい。
しかし、何も学校の中庭に公園を作る事はないと思う。
そんな他愛もない事を考えながら、近くのベンチに腰掛けた。そして、改めて弁当の包みを開ける。
澄輝は独り暮らしだったので、弁当は自分で作る習慣がある。ちなみに、遙火の弁当も燈輝によるものだ。
「あー、激しく鬱だ……」
確かに、これまでのような学園生活も退屈だったが、遙火がいれば事態は好転するかと言えば、そうとは限らない。
むしろ、一日中監視されているような感覚に陥り、かえって気疲れしてしまう。
春の肌寒い風が燈輝の頬を撫で、髪を嬲(ナブ)る。無駄に植えられている緑葉樹の匂いが、少しだけ鼻にくすぐったかった。
冷めても美味しいように作った弁当を摘みながら、平和な昼休みを過ごそうとして、
「……羽間君」
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