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──ようやく帰れるのか……
我が家に帰れるのは大変喜ばしい事なのだが、生憎腹が減りすぎて叫ぶだけの気力がない。
しかし、心の中で、ささやかな幸福を噛み締める。
「じゃあ、改めて自己紹介するわね。私は御巫桔梗。《薔薇十字団》《十二使徒》の一人で、通称よ。よろしく」
桔梗は微笑み、未だに刃物を研いでいる少女へと視線を移す。
「あの娘はスプリガン。私の補佐みたいな事をしているわ。見ての通り、ちょっと個性的だけど」
──確かに……
静かに相槌を打ちながらも、言葉には出さない。今日は、これ以上体を斬り刻まれるのは御免だ。
「それでは、私の番ですねー」
抑揚を欠いた無機質な声が、響く。
そして、張り付けたような無表情が、腹話術人形(あるいは呪いの人形とも)さながらに、淡白に口を開閉する。
「私は火之神遙火ですー。《薔薇十字団》御巫部隊の魔術師で、火が得意属性ですねー。これからよろしくお願いしますですー」
全ての自己紹介が終わると、澄輝は天にも昇る高揚感で満たされていた。
そして、
「「入団おめでとう」ですー」
二人の声が重なり、共鳴した。
澄輝としては、どこぞのカルト教団に迎えられたようで居心地が悪いが、この際そんなのはどうでもいい。
とりあえず、家に帰れるという事実が重要なのだ。
「サンキュ。……さっそくだけど、みかな────
「ようやく私の話が出来ますねー」
家に帰してもらえるよう、桔梗に頼もうとしたところ、抑揚を欠いた声が割り込んできた。
何か思い当たる節があるのか、桔梗は気付いたように苦笑いを浮かべた。
「話……?」
「はいですー。現代の魔術について、今日はガイア仮説をまじえた講義を」
澄輝の背中を、嫌な汗が流れた。本能的に、悪寒がなぜか全身を駆け巡る。
脳が警鐘を鳴らすが、それは同時にどうしようもないという事実をも告げている。
──ハハハ……
乾いた笑いが、口の端から少し漏れてしまった気がした。
「ここで言う魔術とはですねー、一般的に形式化された……」
神の悪戯か悪魔の陰謀か、羽間澄輝は、そう簡単に家へ帰れない運命にあるのだった……
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