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「まあ、俺はそんな理不尽な成り行きで、この組織に入ったってわけ」
話し終えると、澄輝は溜め息を吐いた。溜め息を吐くと幸せが逃げるとは言うが、個人としては数えたくないくらい吐いてきた気がする。
そんな様子を眺めていた瑠奈は、唐突に口を開いた。
「ていうか、羽間君も買い物帰りじゃ、人の事言えないじゃん」
「いや、問題はそっち!?」
確かに、瑠奈を助けた昨晩は、買い物帰りといった様子だった。
しかし、言う事は他にあるだろうと、澄輝は脱力する。
「さて、話も終わったようだし、神凪市に戻りますか。異存はないわね?」
一応の確認はしているものの、有無を言わさぬ口調。澄輝は気を引き締め、一切の邪念を排除する。
恐らく、神凪市へ戻ればそこは、たちまち戦場となるだろう。
スピアードライフルを一層強く握り締め、予備の刃や弾薬の入った鞄を、しっかりと肩に掛けた。
「はい。俺は大丈夫」
遙火はその長い黒髪を掻き分けながら、口を開く。
「私も問題ありませんですー」
キン、と鍔(ツバ)鳴りの音がホールに反響し、スプリガンが振り返った。
無感動な表情を崩さず、静かに言う。
「了解しました。マスター」
そして、瑠奈が小走り気味に、桔梗のいる所へと向かった。
「私も、大丈夫です」
その場にいた全員が周囲に集うと、桔梗は袖からカードを抜き出す。そして、部屋の入り口の方へ向き直った。
「じゃあ、行ってくるわ。砌(ミギリ)君」
微笑の似合う青年は、その言葉に微笑みで返した。
口々に恭介へと別れの挨拶を済ませると、頃合いを見計らって、桔梗はカードを宙に放った。そこから白い光が溢れ、周囲の色を急速に奪ってゆく。
酷くスローな動きでカードが虚空を舞い、光が波打つように揺れる。まるで、穢(ケガ)れを知らぬ清流のように、透明度の高い優しい白色が広がった。
幻想的な光のカーテンが幾重にも迸(ホトバシ)る中、彼らの輪郭が徐々に薄れ、空気に溶けるように消失した。
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