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「私の魔術名は《執行者(エクスキューショナー)》ですー。今から貴方をバラしますが、準備OK?」
セリフを棒読みするかのような声に、黒い男は死期を悟る。
いくら自分がヴァンパイアであろうとも、手負いで魔術師を相手には出来ない。
──この月も、見納めか……
純潔に煌めく月が、まるで己を拒絶しているように在る。
「──我等が《白銀の月夜》に永久の輝きあれ!」
黒い男が両腕を掲げ、歓喜とも恍惚とも表しがたい表情でそう叫んだ瞬間、膨らましすぎた風船のように男の体が膨張、破裂し、血の雨を降らせた。
燃え盛る業火が柱のように伸び上がり、周囲の酸素を喰らい尽くすかのように熱を撒き散らし、やがてその勢いを弱めてゆく。後に残るのは、静寂と、炭化した肉片。
その残骸が、灰と化して夜風に吹かれて運ばれてゆく。
そんな光景を眺めながら、髪の長い一人の少女は胸の前で静かに十字を切った。
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