十三番目

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クラウスは目を細めた。 「さぁ、指輪を使いなさい。世界にその血を証明するのです!」 俺には悪魔を使役するための指輪がある。しかし、これを機動してしまえばどうなるか分からない。呼びだした悪魔が手に負える代物とは思えない。そうなれば無関係な人間を巻き込むことになってしまう。 「これは使わない」 「いいえ、使って頂きます。お前は責任を果たさなければならない。真実に辿り着き、排除された者を救わなければならない。その血を示すことで、隠匿を知る者はお前の元に集う。隠匿された歴史は世に知らしめられる。この不条理な世界を終わらせるのです!」 こいつの言葉に真実はこもっていなかった。救われたいのは自分で、こいつの見据えた世界は誰も救わない。俺はこのままでよかったのだ。毎日が馬鹿ばかしくて、真実が隠されていようとも、偽りの世界であろうとも、俺が皆と生きてきた時間は本物だった。ルナサといがみ合い、ロアに救われ、エルノアと言葉を交わし、リコさんに振り回され、イヴに想われた時間は本物だった。 「これは、使わない……」 うずくように鈍い光を放つ指輪を覆い隠す。 「何故です。世界を救うのになんの不満があるのです」 「違う。世界はこのままでいいんだ。何が真実かは重要じゃない。何が大事なのか、だ。過去にしか執着出来ないやつはいずれ世界に取り残される」 なんと愚かな。そう言ってクラウスは頭を垂れた。愚かだろうが、俺はお前の言うことだけには耳を貸すつもりはない。 「お前は使わざるをえない。 そうでなければ……」 俺にかかっていた影が急に大きくなる。直後、体ごともっていかれる衝撃が思考を吹き飛ばした。空中に放り出された俺を太い尾がからめ捕り、その端が首を締めあげる。合成獣は唸りをあげて、ますますその力を増してゆく。 「さぁ。そのまま死にますか。それとも死にたくないがために、己のエゴのために力を使いますか?」 頭がぼうっとしてくる。頭が熱い。息が出来ない。息が、息が、息が……。 死にたくない……まだ、死にたくない。刻々と、より鮮明な絶望が近づいてくる。その結末を思い描いた時、恐怖と共にかすれた声で叫んでいた。 「ソロモンの指輪起動。召喚『アスタロト』」
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