十三番目

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*** 俺は後悔していた。恐怖に負け、その名を叫んだことを。激しい光と暴風は全てを吹き飛ばし、顕現すべく門を開いた悪魔へ舞台を形作る。俺とクラウスを取り囲むように結界が巡らされ、その中心に悪魔は降り立った。 有翼の獣に跨った悪魔はベリトと比べてより人間に近い風貌をしていた。黒色の皮膚は悪魔に相応しいものだったが、その存在は俺が見てきたものより遥かに高位なものだと一目に分かった。そして、俺の命が間もなく終わろうとしていることも。 冷たい汗が噴き出す。今、その手には合成獣の喉が収まっている。締めあげられていく合成獣はか細い唸りを上げた。それを最後に鈍い音が響き、微動だにしなくなる。 「ふふ……はははは……素晴らしい! なんということだ! 古の作品はここまで圧倒的なのか!」 感激したように叫ぶクラウスは子供のように体を揺すって手を叩いた。俺が召喚したことも、はしゃぐクラウスも気に留めず、アスタロトは今しがた屠った生き物を眺めていた。その目には感情の色がなく、たた死骸を見つめていた。 ふと、足音が聞こえた。人々の悲鳴と建物が瓦解する音に混じって、俺は確かに聞いたのだ。誰かがここへ来る。耳の片隅にやけに残っている足音に類似していた。こんなところへ来てはいけない。角を曲がって現れた人物に、反射的に叫んでいた。 「ルナサ、来るな!」 最悪のタイミングだ。どうしてこんな時に! 一瞬困惑の表情を浮かべて足を止めたルナサだが、再び俺めがけて走りだす。 「聞こえないのか!」 「うるさい! 聞こえてるわよ!」 「聞こえてるなら、早く逃げろ!」 しかし、ルナサは俺の言葉を遮った。 「断るわ! 命令するんじゃないわよ!」 怖くない、ということではないようだ。かすかに震える声がそれを証明していた。しかし、俺たちを囲う結界に阻まれる。限定空間にのみ悪魔を留めてく仕組みが功を奏したようだ。 「新しい観客がきましたね。さて、それでは次の合成獣を……」 手にした本のページをめくり、新しい合成獣を召喚しようと選定を始めるクラウス。どうやらあれには俺の指輪と似たような力があるらしい。ところがそれを見て、これまで沈黙していたアスタロトが口を開いた。
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