罪と罰

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それは突然現れた。黒い風に乗って俺とアスタロトの間に割り込むと、そのローブの中に俺を包み込み、気が付いた時にはルナサの横に下ろされていた。結界の中にはクラウスとアスタロトだけが取り残されていた。忌々しそうにアスタロトは呟く。 「その魔法、覚えがあるぞ」 その後に何かを続けようとしたが、何を口にしたのか俺には分からなかった。  ここはどこだろうか。悲鳴に包まれた対抗戦の会場にいたはずが、俺は静まり返った路地に立っていた。辺りを見回しても人気はなく、アスタロトの気配もない。割れたビンが転がり、壁のタイルが所々剥がれている。あまりに荒廃している。どうやらここは首都ではないようだ。それならば、どこなのだろうか。俺の住む街ではないようだし、そもそも人が住んでいるようにも思えない。 気が付いたが、体の傷は癒えている。酷く汚れたローブと、未だに残る恐怖が先の出来事を事実だと物語っている。突然現れた何かが、俺をここまで移動させたのだ。 「貴方は、あそこで死ぬべきではなかった」 突如、背後から声がした。振り返り、そこに立っていた人物を見たとき俺は頭が割れんばかりの頭痛に襲われた。思わず頭を抱え込み、道端に嘔吐する。俺はこの人物を知っている。しかし、知らない。忘れているのではない。知っているのに知らないのだ。この矛盾を抱えた思考が脳内を駆け巡り、答えを出そうとする。しかし、頭痛は激しさを増してゆくばかりだった。 「大丈夫ですか?」 背中をさすられ幾分か落ち着いたが、足元が覚束なくなる。路地の壁に背中を預けると、彼女も倣って俺に並んだ。白いローブを身につけ、短く切った黒い髪にはヘッドドレスが乗っている。 「誰だ。ここはどこだ。何が起きたんだ」 「落ち着いて下さいませ」 俺の問いに、彼女は静かに答えた。
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