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「ここは首都から離れたとある貧困街です。危機に瀕した貴方をここまで運んだのは私です」
そうか、というと、そうですと笑った。
「どうして助けてくれたんだ? アスタロトは?」
「先に述べましたように、貴方はあそこで死ぬべきではなかったのです。悪魔についてはご心配なく。未だに結界に閉じ込められています。自力で抜け出す手段はないでしょう」
その言葉を聞いて安堵のため息をつく。結界を顕現する指輪はまだ俺の手にある。これが失われない限り、アスタロトはあそこから出られない。助けられたとみていいのだろう。しかし、味方とは限らない。
俺は、彼女が答えなかった問いをもう一度投げた。
「それで、誰なんだ」
「アリカ・クロワールと申します」
アリカ……その名前を俺は記憶から探し当てることが出来なかった。しかし、彼女をどこかで見たことがあるような気がしてならないのだ。具体的な記憶があるわけではない。いつだったのかも分からないし、どこで会ったのかも分からない。しかし、どこかで確かに会っているのだ。
「どこかで会ったか?」
「それはもう、何度も。今は思い出せないかもしれませんが、それはおいおい思いだしてゆけば良いのです」
「すまない」
「いいえ、一時的な記憶の混乱ですから、仕方のないことなのです。それよりも、先ほどはクラウスが失礼いたしました。まさか、あんな手段に出るとは予想出来ず……」
「どういうことだ」
反射的に俺は口にしていた。アリカとクラウスに一体どういう繋がりがあるのだ。
「追放されたクラウスを拾ったのは私です。どうやらこの国の真実に近づきつつあったようで、保護したのです」
理解出来ない。あいつは自業自得で追放されたのだ。しかし、アリカが拾ったということは、こいつらは仲間ということになるのだろうか。俺の考えを見抜いたのか、アリカは頷いて言った。
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