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「では、良い夢を。末永く大事にしてください」
深く頭を下げて道具屋は客を見送った。
チリン、とドアにつけられたベルが寂しげに揺れる。
薄暗い店内に残されたのは道具屋と、一人の少年。
「ねぇ」
少年の呼びかけに道具屋は振り返った。
少年はまるでここは自分の店だと言わんばかりに、一人掛けソファーを陣取っていた。
「なんです? ジャック」
少年を道具屋はジャックと呼んだ。
それが彼の本当の名前ではないことを道具屋は知っている。これはただの呼び名だ。記号でしかない。
「今の人はどうなるの?」
本当はわかっているんでしょ?とジャックは続けた。
「さぁ、どうでしょう」
道具屋はそう綺麗に笑う。
それとは対照的にムスッとしたジャックは小さくケチ、と呟いた。
その子供らしい仕草に道具屋はますます笑みを深めた。
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