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こんなところに店なんて在っただろうか。
私は瀟洒なドアの前で立ち止まった。
扉にはOPENの札がかかっている。店はやっているのだろうけれど店内は薄暗くてよく見えなかった。
ショーウィンドウにアンティークな小物が並んでいるのが僅かな光に浮かぶ。
見上げると『夢盗人』という看板があった。
夢を盗むとはずいぶん物騒な店だ。
何を売っているのかわからないこの店に興味をひかれた。
どうせこのまま家に帰るだけだ。
多少の寄り道は構わない。
むしろ今日はまっすぐ家には帰りたくなかった。
一人でいたら落ち込みそうだ。
私はドアノブに手をかける。
扉を押すと、喫茶店みたいにベルがチリン、と鳴った。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、中性的な声に迎えられた。
声の主は綺麗な人だった。
黒い細身のパンツに黒いジャケットを着ている。
男にも女にも見えた。
店同様、不思議な、独特な雰囲気のある人だ。
日本人離れした容姿だけれど、西洋人の顔立ちでもない。ましてやアラブ系の顔でもない。
こんな綺麗な人見たことなかった。
初めて、他人を素直に綺麗だと思った。
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