act1:徒夢

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1  こんなところに店なんて在っただろうか。  私は瀟洒なドアの前で立ち止まった。  扉にはOPENの札がかかっている。店はやっているのだろうけれど店内は薄暗くてよく見えなかった。  ショーウィンドウにアンティークな小物が並んでいるのが僅かな光に浮かぶ。  見上げると『夢盗人』という看板があった。  夢を盗むとはずいぶん物騒な店だ。  何を売っているのかわからないこの店に興味をひかれた。  どうせこのまま家に帰るだけだ。  多少の寄り道は構わない。  むしろ今日はまっすぐ家には帰りたくなかった。  一人でいたら落ち込みそうだ。  私はドアノブに手をかける。  扉を押すと、喫茶店みたいにベルがチリン、と鳴った。 「いらっしゃいませ」  店に入ると、中性的な声に迎えられた。  声の主は綺麗な人だった。  黒い細身のパンツに黒いジャケットを着ている。  男にも女にも見えた。  店同様、不思議な、独特な雰囲気のある人だ。  日本人離れした容姿だけれど、西洋人の顔立ちでもない。ましてやアラブ系の顔でもない。  こんな綺麗な人見たことなかった。  初めて、他人を素直に綺麗だと思った。
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