act1:徒夢

4/29
前へ
/56ページ
次へ
 ゆっくりと彼は言った。  その言葉にドキリとする。  まるで、私の心の中を見透かしたような。  そんな言葉だった。 「ジャック」  窘めるように店主は彼を見た。男の子はつまらなそうに返事をする。 「わかってるよ。もう黙ってます」  拗ねたような声音で言って、そっぽを向いたのが気配で分かった。 「綺麗になる薬って本当ですか?」  そんなものあるわけない。    頭ではわかっているのに、男の子が言っていたことが頭から離れず、そんな言葉が口から出た。  綺麗になる薬。  そんなものがあるなら、私は今、こんな思いをせずにすんだかもしれない。 「あることはありますが……」  店主は言葉を濁した。 「あるの?!」  私の声は思いの外大きく響いた。  広くない店内で反響する。 「えぇ、まぁ」  店主の困り気味の笑顔が美しかった。  この人のこの美貌もその薬のおかげだというの? 「ほしいわっ。おいくらなの?」  そんなものがあるなら。  私はあんな子に負けたりしなかったのに。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加