幸福の海

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誰もいない、寂れた喫茶店。 まあ、昼間のド田舎の喫茶店なんて、こんなもんだ。 俺はカウンターに座り、窓から見える青々とした空と海をぼんやりと眺めた。 ザザーン・・・ 聞こえてくるのは、潮騒の音と、店内に流れる静かな音楽。 目の前のコーヒーは、とっくに冷めていた。 「おい、大悟。学校はどうした」 不意に、カウンターの内側にいた叔父が声をかけてきた。 バサッ 彼は大きな音をさせて、新聞をめくる。 答えを期待した声音ではなく、俺はカウンターにつっぷした。 高校3年の6月。 もういい加減、就職か進学か、進路も決めていなくてはならない時期。 そして、それ以前に俺は、この先の生き方を 決めなくては、ならない。 隠し通していく人生の、この先を。
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