第1話

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この世界に、自分しか存在してないんじゃないかって思った。 それくらい世の中は静かで真っ暗だ。 ザクッ、ザクッと降り積もる雪を踏みしめ前へ進む……が、あまり進んでない気もする。 私の行く手を阻む、この雪のせいだ。 真夏のアスファルトを歩くのとは訳が違う。 滑る雪道で転ばないようにと、足の変な所に力が入ってしまい筋肉が痛い。 なかなか進まない歩みとは裏腹に気持ちばかりが先走る。 ───私は、焦っていた。 こんな時間に、人気のない所を女の子が一人で歩いているのだ。 誰かに見られたら絶対に声をかけられるに決まってる。 新聞屋の朝刊配達でもない限り怪しまれるだろう。 今の私の格好は、分厚い紺色のコートにベージュと白のボーダーのマフラー。 そしてファーの耳あてと、防寒対策ばっちりの装備だ。 背負ってるリュックには勉強道具が、手に持ってるボストンバックには着替えと洗面用具、その他諸々が入ってる。 私は決して旅行に行くわけじゃない。 いうなれば、そう──“夜逃げ”だ。 .
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