第1話

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やっとの思いで駅に辿り着く。 この寒さで少し凍ってしまったドアを抉じ開けるが、全部は開かないため強引に体をねじ込んだ。 乗ろうとしている始発便はまだまだ来ない。 狭い待ち合い室の真ん中にあるストーブに炎が灯っているわけもなく、この空間も冷えきっていた。 ふぅ…とため息をつくと、白い息が出て冷たい空気に吸い込まれて消えた。 無機質な感触のベンチに腰掛け、コートの右ポケットからあるものを取り出す。 東京行きの片道切符。 文字通り、『片道』だ。 帰りの分は無い。 もう二度とここに戻ってくるつもりはないのだから。 そう、絶対に。 これから行くところは、夢と希望に満ちた…それでいてちょっぴり危険な自由の街。 バイバイ、このぼろぼろな駅。 バイバイ、歩き慣れた道。 バイバイ、楽しい思い出なんかなかった学校。 バイバイ…お母さん。 バイバイ、小さくて田舎の…私の大好きな、この街──… さようなら。 “奈緒子ちゃん”って、誰かが遠くで呼んだ気がした。 ──奈緒子ちゃん ほら、また。 ──奈緒子ちゃんってば… …あれ?これは夢? .
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