第1話

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「奈緒子ちゃん!」 心配そうな、大きなしわ枯れ声に名前を呼ばれて、自分でも分かるくらいビクッと反応した。 まだ覚醒しないボーッとした目で周りを見回す。 狭い店内も、壁に貼られた手書きのメニューも、未だに箱型のテレビも、所狭しと飾られてる芸能人のサイン色紙も。 私が今、うたた寝をしてしまった前と何一つ変わらない。 東京の、小さな小さなラーメン屋さんだ。 そして私の名を呼んだのは、この店の店主…源次郎おじいちゃん。 “生涯現役”がモットーの頑固なおじいちゃんだ。 「大丈夫か?やっぱり疲れてんじゃねぇのか?昨日も夜遅くまで勉強してたみてぇだしよぉ」 「いいえ、そんな!全っ然大丈夫です!平気です!!」 ───嘘。 本当は眠くて眠くてたまらない。 場所なんてどこでもいいから、今すぐにでも横になりたい。 でもこのおじいちゃんは、東京にやってきて、右も左もわからない田舎娘を自分の家においてくれてるのだ。 住まわせてくれてるお礼に、このお店をお手伝いする。 私が決めたことだ。 「そうかい、ならいいけどよ。じゃあ出前の注文が来たから、お願いしていいか?」 「はい!勿論!!」 座ってた丸椅子を元に戻し、軽く伸びをすると身体の関節が音を立てた。 .
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