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「奈緒子ちゃん!」
心配そうな、大きなしわ枯れ声に名前を呼ばれて、自分でも分かるくらいビクッと反応した。
まだ覚醒しないボーッとした目で周りを見回す。
狭い店内も、壁に貼られた手書きのメニューも、未だに箱型のテレビも、所狭しと飾られてる芸能人のサイン色紙も。
私が今、うたた寝をしてしまった前と何一つ変わらない。
東京の、小さな小さなラーメン屋さんだ。
そして私の名を呼んだのは、この店の店主…源次郎おじいちゃん。
“生涯現役”がモットーの頑固なおじいちゃんだ。
「大丈夫か?やっぱり疲れてんじゃねぇのか?昨日も夜遅くまで勉強してたみてぇだしよぉ」
「いいえ、そんな!全っ然大丈夫です!平気です!!」
───嘘。
本当は眠くて眠くてたまらない。
場所なんてどこでもいいから、今すぐにでも横になりたい。
でもこのおじいちゃんは、東京にやってきて、右も左もわからない田舎娘を自分の家においてくれてるのだ。
住まわせてくれてるお礼に、このお店をお手伝いする。
私が決めたことだ。
「そうかい、ならいいけどよ。じゃあ出前の注文が来たから、お願いしていいか?」
「はい!勿論!!」
座ってた丸椅子を元に戻し、軽く伸びをすると身体の関節が音を立てた。
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