第1話 鑑定士と精霊

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未来を扉に例えてみたいと思う。 どこでもいい。 一寸先も見えない夜空の下でも、何もない草原の上でも、とある幸福な家族の一軒家の中でも。 未来の扉は場所を選ばない。 その扉――分厚い扉のひんやりとした取っ手に触れ、恐る恐る押し開ける。 そうすれば明日が出迎えてくれるだろう。 扉が開かないとき、それは多分、鍵がかかってる。 無情にも非情にも未来が閉ざされてしまうことはある。 けれどこうも思う。当たり前の思考だ。 扉に鍵がかかってれば鍵穴がある。つまりは鍵がある。 びくともしない扉を引いたり押したりするのに疲れ果てて座り込んでいても、案外、鍵なんてすぐ隣に転がってるかもしれない。 鍵はある。扉は開く。 よって未来は来る。 けれど、開けた先が光に満ちた世界とは限らない。 暗雲渦巻く明日かもしれない。 俺が開けた未来。 果たしてそこは暗闇だった。 どうしようもなく暗闇で何もかもが見えなかった。 手を伸ばしても手が見えない。 光が、欲しい。 今まで俺の横にあった太陽のように眩しい光が。 なあ、笑ってくれよ。 ―――― 
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