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夜になる。
蒼穹と称するに相応しい空も徐々に陰りを帯び、燦然(さんぜん)と頭上で輝いていた太陽も、今や紅蓮の穏やかな輝きの中に身を潜めている。
鳥達が駆け抜けていった空に一番星を見付けた。
しばらくすれば、空は砂金を散りばめたような星々で埋め尽くされるだろう。
だが、その遠い宙(そら)に浮かぶ星達の力では暗くなった夜道を照らすには心許ない。
「あと少しのはずなんだがな……」
できれば完全に辺りが闇に包まれる前に、目指す街に着きたい──俺はそのようなことを思いながら歩き続ける。
野宿は勘弁して欲しかった。まともな寝具は寝袋くらいしかないし、既に2日間、寝床は冷たく固い土の上だ。
そろそろ清潔なベッドで寝たいと、俺の身体が訴えている。
道は悪くない。
今、俺が歩いている街道はそれなりに整備されており、歩き易い。
目を凝らして道の先を見る。
「……お」
踏み固められた平らな道の先、そこに光が見えた。
街の明かりだ。
この距離なら30分もしない内に着くだろう。
俺は急に軽くなった正直者の足を前へと進める。
ようやくだ。
「……」
けれど、せっかくの軽快な足取りは不快な足止めによって阻まれることとなる。
どうしてここで立ち止まらなきゃならん。
気持ち良く踏み出した俺の足が所在なさげに地面を踏み締めていた。
「……はあ」
ぴりぴりとした緊張感が俺の足を止めさせたのだ。
俺は嘆息する。
殺気というには大仰だが、明らかな敵意が感じられた。
もちろん、それは俺に向かっているわけで、簡単に言えば俺はそこらへんの草むらの中に隠れてるつもりになってる奴らに狙われてるわけだ。
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