8/11
前へ
/168ページ
次へ
私はお弁当を慌てて包み、ベンチから腰を浮かす。 けど手を引っ張られ、簡単にまたストンとベンチに座る。 「何で逃げるの?」 あどけなさの残る、でもどこか掴み所ない顔で、男の子は私に視線を合わした。 私は何故かそこから、視線を外せなかった。 「は、恥ずかしい……、から……」 こういうとき、自分がちゃんと喋れないのが嫌になる。 はっきり言おうと思っても、途切れ途切れに、小さな声しか出ない。 「ふーん……」 男の子はそれだけ言って、ベンチに背中を預けた。 あっ……視線が外れた……。 そう思ったら、私の頭が考えるより先に口が勝手に動いていた。 「な、名前は?」 「緋藺 翔(ひいのしょう)。ちょっと変わってるでしょ」 「う、うん……」 何で私は名前を聞いたんだろ? 聞いてどうするつもりなの?
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

599人が本棚に入れています
本棚に追加