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「まあとにかくな。因業なんてしち面倒くさい。どだい、あんなものは幾らでも畳めてしまうものなのであってな」
「‥そうなのですか?」
「考えてもみろ。おまえは自分を成立させてきたところの諸元を、何かひとつでもいい‥自分の記憶の視野のなかで、追い切れるものがあるかな?」
「諸元、ですか?ええと‥」
そう訊かれて、ぼくは困ってしまいました。
ぼくが困ったのは、鬼に指摘されたこととはまたべつのことでなのでしたが‥向こうはまたうんうんと頷いて、
「そうさ。おおまかな線であっても、たいがいの脈絡はどんな意識の視野にも入り切らず抜け落ちてしまう‥そういう有り様なのでな。ことの枝葉末節など誰もしらんし、誰も尊重などせん」
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