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事の起こりは定時を少し過ぎた頃。
胸まである真っ黒な髪をなびかせながら、騒つく廊下を足早に歩いていた。
「上條琴音さん、ちょっといいかな?」
急ぐ私の背中に少し高めの男の声がかかり、一分でも早く帰りたい私は渋々足を止めた。
時も場所も選ばず声を掛けられる総務という仕事を恨みながら、何の疑問も持たずに男の後についていった。
背の高い気取った空気の見知らぬ男と、何故か資料室に向かっていたというのに。
――――――
静かな資料室でされたのは、仕事の話などではなく告白だった。
付き合ってやってもいいよ。
という偉そうな態度付きの。
……全くもって意味が分からないんですけど。
恐らく、普段猫のような私の目は真ん丸になっていたことだろう。
状況を全く把握出来ないで置き去りにされる私を無視し、目の前の男の話は続いた。
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