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驚愕した。
頭に植え付けた偽の記憶。
体に覚えさせる俺という存在。
その与えられた情報から、琴音の心が錯覚を起こすまで。
そして、その錯覚が本物に変わるまで。
決して彼女を抱かないと決めていたのに。
目的を忘れて自分の欲望のままに抱こうとしてしまうなんて。
それほどまでに彼女に溺れてしまうなんて。
そんな風になるなんて、想像もしなかった。
更に悪いことに、彼女が「触れてくれない」と泣いたあの日以来、俺の感情はますますコントロール出来なくなった。
最早目的なんて二の次だ。
不安にさせないと言った言葉は口実で、ただ彼女に触れたいという欲求のままに触れ、貪る。
何時だろうと。
何処だろうと。
このままだと、抱かないと決めた誓いを破ってしまう日も近いかもしれない。
「危険、だな……」
ポツリと呟き、グラスの中の氷を指で軽く回す。
指先に感じる冷たさが、熱く猛った感情を抑えてくれる――。
そんな錯覚を感じながら、グラスの中でゆっくりと回る氷を見つめ続けていた。
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