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鳳院さんは暫くの間何も言わない私を見つめていた。
規則的に動く時計の針の音さえも私を追い詰めていく。
不意に、彼は悪戯を思いついた子供のように楽しげな笑みを浮かべた。
「拒絶の言葉しか言わない口なら……もう、いらないよね」
囁かれた言葉は浮かべた笑みとアンバランスで、そのちぐはぐさがより一層纏う雰囲気の妖しさを増やしている。
「あ……」
言い知れぬ恐怖を感じ、声を出そうとするが上手く喋れない。
私を見つめる彼の瞳には、猫が鼠をいたぶる時のように残忍な光と嬉々とした気持ちが映っていた。
「どうやって塞いで欲しい?
口……じゃあ普通だよね?」
おもむろに鳳院さんはネクタイに手をかけた。
シュッという衣擦れの音がして、突然目の前に掲げられる。
「……ネクタイ、とか?」
ビクリとする私を見てより楽しそうに瞳を細める鳳院さん。
「それとも……もっと別のにする? 希望聞くよ? 琴音ちゃん」
希望なんてあるわけがなく、ただただ恐怖に身を縮めていた。
言葉は喉の奥に貼りつき、一向に出てこない。
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