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◇◇◇◇◇
カーテンの隙間から朝日が差し込み初夏の熱気が部屋の温度を跳ね上げる中、俺はベッドから身体を起こす。
時が流れるのは早いもので、俺が虎の穴に来てから今日で一ヶ月が経つ。
さすがに受付のお姉さん達とは打ち解けたし、四谷さんとは晩酌を酌み交わす仲になっていた。
今日で此処ともお別れかと考えると感慨深いものがある。
お姉さん達の風呂を覗こうとしてフルボッコにされた風呂場。
オカズが残っておらず、海苔の佃煮だけでご飯を食べた食堂。
電波が届かず、チャンネルが二つしか映らない自室のテレビ。
足腰立たなくなるまで、時には死ぬ寸前まで鍛えられた屋外訓練場。
……あれ?いい思い出なくね?
ま…まあ取り敢えず、そんな生活も今日で終わりなわけだ。
明日には三宅さんが迎えに来て東京へと戻る手筈になっている。
つまり、今日四谷さんに勝てなければ俺は負けっぱなしで訓練を終える事になってしまう。
確かに四谷さんは強い。鬼のように強い。さすが訓練教官に選ばれるだけある強さだ。
だが、四谷さんとて人の子だ。完璧な筈がない。
帰るまでには一本取りたい。これは男の意地ってやつだな。
カーテンを開ければ外には快晴の青空が広がる。
一面緑が覆う景色の中、人の姿が見えた。
四谷さんとその奥さんである受付のお姉さんの片割れだ。
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