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さっきのが手品じゃないとすれば厄介だ。
どんな仕組みか知らないが、剣を振っただけで草を刈り地面を抉ったのだから人体に当たればどうなるか分かったものではない。
あ、この場合の人体って俺か。
そう云うことなら……
「三十六計逃げるが勝ちだ!」
辺りに乱立する岩を自分とアインスの間に入るように考えながら、頭上に剣を振りかぶったアインスを背に走り出す。
百メートル十四秒、逃げ足ならば十二秒を切る俺に着いてこれるか!
「なっ!」
フィアの驚いた声が聞こえる。
予想通り間に障害物があればアインスの変な手品は出来ないらしく、周囲に変化は表れない。
チラリと後ろを見れば、剣を下ろし走り出したアインスとフィアの姿が見える。
パスポートと金はパンツの中にしまってあるのでバックパックは諦めて、逃げ切ったら森を出て大使館に直行して日本に帰ろう。
「逃げるな!戻ってこい!」
アインスが叫んでいるが、彼は馬鹿なんだろうか?
攻撃されて逃げ出した人間が戻れと言って戻ると思っているのだろうか?
思っているとしたら、彼は確実に残念な部類に入る人種である。
当然俺は止まることなく走り続けた。
途中の木々を避けると同時に背に回し、常に奴らとの間に障害物を置くように走る。
その甲斐あってか、走り始めてから一度も最初に見た攻撃はやってこない。
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