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「私が当館の女将です、どうぞ自宅のようにごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
チェンジ!チェンジ効きますか!?
衣擦れの音もなく立ち上がった女将は俺の手からバッグを掠め取ると「どうぞ御案内致します」と奥へと歩き始めた。
ぶっちゃけ、いつバッグを奪われたか分からなかったんですが……
バッグの中にはワンペが収納してあるんで自分で持ってくつもりだったんだがな。
仕方無く靴を下駄箱に納めるとスリッパに履き替え、先を行く女将の後を追う。
一応女将だと言うだけあり、歩く速度は速過ぎず遅過ぎず。「晴れて良かったですね」、「どちらからいらしたのですか」など当たり障りのない会話を振ってきて気を使っている様子も窺える。
俺の偏見か。見た目がちょっとアレだからって恐がった俺の負けか。
接客態度を見る限り老婆は一流の女将だと分かるし、これは偏見を捨てて楽しまなきゃ損だな。
「此方でございます」
女将に通されたのは宿の奥、玄関まで結構な距離のある一室。
引き戸を開けた女将に促され室内に足を踏み入れた俺は言葉を失ってしまった。
十数畳の広い畳敷きの和室。
中央には重厚なテーブルと座椅子が備えられ、壁には長い掛け軸が下がっている。
テレビは薄型のタイプが景観を損なわないように配置されセンスの良さを窺わせ、窓際にも洋風の高いテーブルと椅子が二脚、障子の向こうには同じく景観を損ねないよう隠されて冷蔵庫が配置されていた。
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